最新.6-1『クールダウンタイム』
時系列は少し遡る。剣狼隊長との決着が付く少し前――
主戦場が谷間から北上した地域へと移り、静けさの戻った谷間の道を、十騎程の馬が駆け抜けてゆく。そのうちのいくつかは空の荷馬車を引いており、ガラガラと荒い音を立てている。
それぞれの馬に跨るのは、独特の黒い皮スーツに身を包む剣狼隊ではなく、この世界によくみられる軽装の戦闘服を纏った、衛狼隊の傭兵達だった。隊の先頭を衛狼隊長衛狼隊長の操る馬が掛け、側近の衛狼Aがその斜め後ろを追走している。
衛狼A「………」
衛狼Aはその顔を酷いほどに顰めている。その訳は、彼女が数分前に目にしたやり取りにあった。
――
衛狼隊長「馬は何頭無事だった?」
衛狼B「二十頭程です。それと馬車が数台、なんとか使えます」
衛狼隊長「よし、半数は負傷者の運び出し用に回せ。もう半数を使って親狼隊の救助に向かう」
敵が後退した事により難を逃れた衛狼隊は、動ける者の中から志願を募り、先にいる親狼隊及び瞬狼隊の生存者の回収に向かおうとしていた。その指揮は、一応の平静は取り戻した衛狼隊長の衛狼隊長が取っていた。彼のこめかみに応急処置であてがわれた布には、痛々しく血が滲み広がっている。
剣狼艶女「ねーぇ、やめておいたほうがいいんじゃなあい?生き残っている人がいるかも分からないわよぉ?あたし達剣狼隊が、敵を一掃するのを待つべきだと思うなぁ?」
そんな衛狼隊長に、背後から緊張感の無い間延びした声が掛けられる。声の主は剣狼隊の副隊長格の一人である剣狼艶女だ。
衛狼隊長「……まだ救えるヤツがいるかもしれないだろ」
衛狼隊長は無事だった愛馬の頭を撫でながら、剣狼艶女の言葉に淡々と返す。
剣狼艶女「まぁ、ご立派!さすが衛狼隊長さん。そこまで言うなら止められないわねぇ、幸運を祈ってるわぁ」
わざとらしい台詞回しで発する剣狼艶女。その言葉には本気で心配し、応援する意図など微塵もこもっていなかった。衛狼隊長は最早相手にせずに部隊の再編制に集中していたが、近くでそれを聞いていた側近の衛狼Aは、剣狼艶女の姿を鋭い目で睨んでいた。
敵の猛攻が収まった後に援護に駆け付けた剣狼隊長率いる剣狼隊は、しかし敵が撤退して崖の上が蛻の殻であることが分かると、北側の崖へと再び戻って行った。その際に剣狼艶女を筆頭とする一隊だけを残して行ったのだが、その残った剣狼艶女達は、周囲の警戒こそしているものの、衛狼隊負傷者の救護等に手を貸す様子は一切見せなかった。未だに北側では戦闘が続いているため、警戒に専念するという点では彼女らの行動も理解はできる。しかしそれ以上に、戦場で脚光を浴びるのは自分たちであると疑わず、背景に過ぎない他の者がどうなろうとも知った事ではない。そんな意識が、剣狼艶女を始めとする傭兵達の姿勢からは、あからさまなまでに現れていた。
――
衛狼A「……ッ」
思い出し、ギリリと奥歯を噛み締める衛狼A。月下狼の傭兵団に籍を置いて長く、親狼隊や瞬狼隊などの他隊の交流も深かった彼女は、それらを総じてないがしろにされた事に強い怒りを覚えていた。しかし現状、それらの仲間を手に掛けた憎き敵に対抗できているのは剣狼隊のみであり、今から慣行されようとしている親狼隊の回収作戦は、敵の注意が剣狼隊に向いているからこそ成功の望みが有るというのが現実であった。先の一方的な虐殺に、仮にも味方であるはずの者達からのぞんざいな扱い。立て続けの不条理に、衛狼Aの心は今にも折れそうですらあった。
衛狼隊長「衛狼A」
しかし先頭の衛狼隊長の声に、衛狼Aは視線を起こす。
衛狼隊長「集中しろ。今、俺達にできることをやる」
衛狼隊長は視線を前に向けたまま、言い聞かせるように発する。
衛狼A「ッ――はい!」
その言葉に、衛狼Aは気持ちを切り替える前を見る。やがて彼らは、荒れ果てた凄惨な戦闘が行われたその場所へと踏み込んだ。
脅威存在への対応のため、谷に展開する各隊は陣地転換や人員移動を余儀なくされ、指揮所を兼ねるここ第1攻撃壕は、直接戦闘を行った先程とはまた別種の騒がしさに包まれていた。施設作業車と、追加で乗り入れさせた大型トラックが、頻繁に往復を繰り返している。負傷した隊員、わずかに生き残った傭兵の生存者、そして殉職した隊員の遺体を後送するためだ。
隊員O『L1へ。こちらジャンカー1-3、隊員O。谷をそちらへ行く敵部隊を確認』
補給「何?」
それら各作業の指揮を取っていた補給の元へ、通信が飛び込む。
隊員O『二個分隊規模、騎兵と荷馬車複数が通過中。こちらは現在、眼下に十分な火力を向けられない、早急にそちらの迎撃態勢を整えられたい』
補給「了解、ジャンカー1-3。こちらで対応する」
砲隊D「敵影視認」
補給が交信を終えるのを見計らったかのように、隣にいる野砲科の陸士長が声を発した。
砲隊D「騎兵約20騎前後、接近中」
続く陸士長の報告を聞きながら、補給は壕から半身を出して暗視眼鏡を覗く。すると暗視眼鏡越しの視線の先に、報告道理、十騎程の騎兵がこちらへ向かってくる姿が見えた。
武器A「今度はなんだぁ?」
忌々し気な口調で呟いたのは、92式7.7mm重機関銃の前に位置取っていた武器Aだ。彼は心底めんどくさそうに顔を顰めつつ、握把を握り、迫る騎兵部隊の方向へと重機を旋回させる。
補給「なにが狙いだ?」
暗視眼鏡越しに見える騎兵達は皆、馬上で盾をこちら側に向けて構え、その身を庇いながら接近して来る。補給は敵の姿を観察しながら、その目的を推察する。
補給「――ッ!隠れろ!」
しかし直後、補給の目は馬上で弓を引くのを傭兵達の姿を見る。声を上げ、各員が壕に身を隠した直後、複数の矢が壕の周囲に降り注いだ。
武器A「ッ――あぁ、糞」
塹壕の手前にはいくつかの矢が突き刺さっていた。武器Aは刺さった矢に一瞥をくれて悪態を吐きながら、重機の照準に傭兵達を捉え直す。
武器A「補給二曹、いいですね?」
そして、ややぶっきらぼうな口調で補給に発砲許可を仰ぐ。
補給「許可する」
対する補給は端的に発する。その言葉を聞き、武器Aは返事の代わりに、押し鉄に力を込めた。九二式重機独特の発砲間隔で撃ち出された、複数の7.7o弾が眼下の騎兵達目がけて降り注ぐ。しかしこれまでの密集隊形と違い、散会して駆ける騎兵達の速度は速く、初撃で有効打は発生しなかった。
武器A「ちょこまか動くなや……」
武器Aは悪態を吐きながら、一騎の騎兵に狙いを定め、進行を予測し再度発砲。だが今度は命中こそしたが、7.7o弾は傭兵が馬上で構える盾に阻まれ、傭兵自身には到達しなかった。
武器A「チッ、防がれた。盾を厚くしたか、それかお得意の不思議パワーでも使ったか」
舌打ちをし、忌々し気な口調で敵が対応策を取った事を推察する。
砲隊D「てき弾を使いますか?」
野砲科の陸士長、砲隊Dが具申する。彼の手には71式66oてき弾銃があった。
補給「―――いや、待て。攻撃中止」
しかし、補給は制止の声を上げた。
武器A「なんです?」
補給「動きが妙だ」
唐突な制止命令に怪訝な声を返す武器Aに、補給は端的に言いながら、眼下の観察を続ける。
突入して来た傭兵達は、先の戦闘が行われた場所まで到達すると、馬から降りて周囲へ散らばる。補給は最初、傭兵達が展開して攻撃の布陣を取るのかと思ったが、傭兵達は積極的な攻撃をしてくる様子は見せず、身軽な者と盾を構える者が組となり、こちらへ防御の姿勢を見せながら、遺体の散乱する周辺を駆けまわっていた。
補給「そういうことか――彼らは味方を回収しに来たんだ」
その様子から、傭兵達の目的を察する補給。
補給「――よし、彼らに呼び掛けてみるか」
武器A「はい?」
そして続けて補給が口にした言葉に、武器Aが怪訝な表情を向けた。
補給「彼らの様子から、おそらく現状での戦闘は本意ではないはずだ。なんとか交渉できれば、穏便に撤退願えるかもしれない」
武器A「綺麗事を言ってる場合ですか?」
補給の言葉に、およそ上官に向けるそれではない皮肉を含んだ口調で発する武器A。
補給「砲隊D士長、拡声器を」
しかし補給は武器Aの皮肉には取りあわずに、砲隊D陸士長に指示を呼ばす。スピーカーメガホンが塹壕の手前に用意されると、補給はそのマイクを手に取り、その口を開いた。
補給「展開中の方々に告げます。こちらは、日本国陸軍です――」
戦いがあったと思われる地点へ踏み込んだ衛狼隊長と衛狼隊の傭兵達は、敵が身を潜める崖を警戒しながらも、生存者を見つけるべく駆けまわっている。しかし周辺に横たわる仲間たちはことごとく息絶えており、生きている者を発見する事は叶わないでいた。
衛狼B「ダメだ、こいつも死んでる……クソッ」
衛狼隊長「衛狼B。気持ちは分かるが、今は生きてる者を探すのが先だ」
仲間の亡骸を前に、悲痛な面持ちでうなだれる傭兵がいたが、衛狼隊長はそんな彼の肩を掴んで言い聞かせる。
衛狼隊長「いつまた敵の爆炎が襲い来るか分からねぇ。辛いだろうが、今は気張ってくれや」
衛狼隊長に説かれ、傭兵は生存者の捜索へと戻ってゆく。しかし衛狼隊長自身は部下にそう説きながらも、今の状況に違和感を感じていた。
衛狼隊長(妙だ、連中何もしてこねぇ……)
先の戦闘で受けた苛烈な攻撃に、再び晒される事を覚悟の上で突入して来た衛狼隊長達であったが、敵からの攻撃は、この場へ踏み込んだ段階で鏃の攻撃を一度受けた切り鳴りを潜め、彼等のいる谷間は不気味なほどに静かであった。
衛狼隊長 (剣狼隊にそれ程まで戦力を割いてんのか?にしても何か妙な感じが――)
訝しむ衛狼隊長の思考を遮り、異質な音声が彼らの耳に飛び込んだのはその時だった。
補給『展開中の方々に告げます。こちらは、日本国陸軍です』
谷間全域に響き渡りそうな程の声量。
唐突な出来事に傭兵達が騒めき出すが、音声の主はその声量に反した落ち着いた口調で言葉を続ける。『当方には戦闘を停止し、あなた方の回収行動を容認する意思があります。また、現在こちら側で、あなた方のお仲間の生存者を保護しております。当方は、生存者の方々をそちらへ引き渡す準備があります』
衛狼隊長「………何を言ってる?」
突然の怪音、そして聞こえ来るその内容に、衛狼隊長こ口から困惑の声が零れる。
補給『どうか、攻撃の意思を見せないでください。そちらからの攻撃が無い限り、これ以降、こちらからも攻撃を行わない事を約束します。ですが万が一、そちらから戦闘継続の意思が認められた場合、我々も身を守るため、対抗策を行使せざるを得ません。これ以上犠牲者を増やさないため、どうか人命優先の判断を願います。繰り返します――』
音声の主は言葉の反復を始め、異様な現象に困惑していた傭兵達も、その内容をようやく噛み砕く。
衛狼B「……ふざけているのかッ!」
衛狼C「ここまでやっておいて、今更何をぬけぬけとッ!」
そして彼らは怒りの声を上げた。
先の戦闘では、敵からの情け容赦のない攻撃によって多くの仲間が命を落とした。その相手から一転してお互いのために殺し合いをやめましょう≠ネどといった戯言がかかれば、傭兵達の感情を逆撫でし、激昂させるのも当然の事だった。
衛狼隊長「………」
一方の衛狼隊長自身は、険しい表情で崖を睨みつつも、繰り返される呼びかけに注意深く耳を傾けている。彼自身も腹立たしさを感じていないわけではなかったが、しかし仲間を保護しており、引き渡す準備がある≠ニいう言葉に注意を向けられるほどには、彼は他の傭兵達より冷静だった。先程怒り散らした分、気持ちが落ち着いていたのかもしれない。
補給『当方は、そちらの代表者の方との交渉、及び調整を希望します。繰り返します、当方はそちらの代表者との対話を望みます』
さらに発せられた異質な音声と共に、今度は崖の上に動きが見える。一つの炎の物らしき光が崖の上で灯り、その光が微かにシルエットを浮かび上がらせる。よくよく目を凝らして見れば、それが松明らしき物を持つ人影である事が確認できた。人影は体の上で大きく振るっていた松明を、今度は崖下を示すように足元で振り子のように振るう。おそらく崖下を交渉の場として指定しているのだろう。
衛狼B「ふざけた真似をッ!」
その時一人の傭兵がクロスボウを構え、その人影に向けて矢を引こうとした。
衛狼隊長「待て!」
しかし衛狼隊長はその傭兵のクロスボウを掴んで下げ、制止させる。
衛狼B「ッ!?……隊長?」
衛狼隊長「少し待て………交渉と来たか」
訝しむ傭兵を宥めつつも、衛狼隊長は呟きながら考えを巡らせる。
衛狼隊長「………行って来る」
衛狼A「え……ッ?」
衛狼隊長の静かに発した言葉に、傍にいた衛狼Aは目を見開く。そして一歩踏み出そうとした衛狼隊長を見た彼女は、慌てて衛狼隊長の体にすがり寄り、彼を止めた。
衛狼A「ま、待ってください隊長!奴らのふざけた提案を聞き入れるつもりですか!?」
衛狼隊長「本音を言や、俺だってふざけんなと一蹴したい所だ。だが……生存者を預かってると言ってた。本当に生き残りがいて、そいつらを連中が抑えてるんなら無視できねぇ。俺達は生き残りを助けに、ここまで突っ込んで来たんだからよ」
衛狼A「しかし、罠という可能性もあります!」
衛狼隊長「かもな……だから俺が一人で行って来る。防御態勢は解くな、お前等は生きてる奴の捜索を続けろ。もしも何かあったら、お前等の判断でここから撤退しろ」
衛狼A「た、隊長……ッ!」
困り顔の衛狼Aのに命じ、衛狼隊長は崖を目指して歩き出す。
衛狼隊長(……我ながら傭兵向きの性格じゃねぇなぁ……)
その最中、衛狼隊長は内心でそんな自己評価を呟いた。
補給「こちらL1補給、先の二人はまだ待機地点にいるか?そうか、ならそこで止め置いてくれ。いや、その二人だけだ、他の重傷者は至急後送して処置を――あぁ、頼む。L1終ワリ――様子どうだ?」
無線での後方との調整を行っていた補給は、やり取りを終えて無線機を置くと、横で眼下を観測していた砲隊Dにその様子を尋ねる。
砲隊D「敵の人員に動揺が見られます」
武器A「ブチ切れてるようにも見えるんだがなぁ?」
砲隊Dの説明に、武器Aが皮肉気に言葉を付け加える。
眼下の傭兵達はこちらに警戒を向け続けているが、生存者捜索の動きが緩慢になる等の変化が見られ、そして一部の傭兵達から上がる荒んだ声が微かにだが聞こえてくる。
補給「言葉だけじゃなく、態度で示さないとならないか――当方は、そちらの代表者の方との交渉、及び調整を希望します。繰り返します、当方はそちらの代表者との対話を望みます」
補給は再び拡声器のマイクを取り、そんな一文を言葉にして呼びかける。そして傭兵達の反応を待たずにマイクを置くと、代わりに発炎筒を手に取り、塹壕の縁に足を掛けた。
武器A「正気ですか?宇桐の二の舞になるつもりで?」
補給の行動に、武器Aが感心しないといった態度で視線を送る。
補給「殺し合いを終わらせたければリスクもあるさ。何かあった時は後を頼む」
武器Aに対して補給はそう返すと、塹壕の外へと繰り出した。崖の縁に立つと、発火させた発炎筒を大振りの動作で規則的に動かし、眼下の傭兵達に向けての意思表示を試みる。
武器A「――ほんとかよ」
暗視眼鏡と重機の照準越しに騒めく傭兵達を眺めていた武器Aは、やがて起こった状況の変化に、呆れにも近い驚きの言葉を口にする。
傭兵達は最初、補給の意思表示に対して懐疑的な動きを見せるばかりか、こちらに向けてクロスボウらしき物を構える者の姿まで見え、それを見止めた武器Aも重機の押し鉄に力を込めかけた。しかしそれを制止する代表らしき人間の姿が見え、その人物は何やら傭兵達を宥める様子を見せた後に、こちらへと向かって来たのだ。
補給「聞く耳は持ってもらえたかな?――砲隊D士長、1-1に例の二人をこっちへ連れてくるよう言ってくれ。ルートは崖下、くれぐれも警戒は怠らないようにともな」
こちら来る人影を確認した補給は、砲隊Dに無線通信の指示を出す。
補給「よし、じゃあここを頼むぞ」
そして壕の隊員等にそう告げた補給は、次の瞬間に崖の縁から飛び降りた。
武器A「知らんぞ」
武器Aはそんな言葉と共に補給を見送った。
補給は傾斜のきつい断崖を、器用な身のこなしで滑り降りてゆく。降り切って崖の下へ足を着き、視線を起こすと、こちらへ向かってくる人影をその眼に見止めた。肩から下げた9mm機関けん銃を確認すると、補給は谷の中心部に向けて歩みを進める。そして同じく歩いて来た傭兵、衛狼隊長と相対した。
補給「日本国陸軍、展開隊臨時指揮官の補給二等陸曹です」
補給は先んじて身分階級等を名乗り、敬礼の動作をしてみせる。
衛狼隊長「………月歌狼の傭兵団、衛狼隊長の衛狼隊長だ」
対する衛狼隊長は、目の前の異質な恰好の人間に警戒の目を向けながらも、返答として己の身分を名乗った。
補給「呼びかけに応じていただき、感謝します。
先に申し上げた通り、我々にはこちらで保護している負傷者を引き渡し、ご同胞の回収を容認する意志があります。必要であれば回収作業の支援も。どうか停戦に合意いただきたく思います」
衛狼隊長「……なんのつもりだ?」
補給の言葉を聞いた衛狼隊長は、少し間を置いた後に口を開く。
衛狼隊長「ここまで俺達をズタズタにしておいて、今更降伏じゃなく停戦を呼び掛けるとは、妙な事をするじゃねぇか。何を企んでるんだ……?」
補給「警戒されるのもごもっともです。しかし我々も、好きで殺し合いをしているわけではありません。あくまで村へ危害が及ぶことを防げればいい、それ以上の無用な犠牲は避けたいのです。
あなた方はご同胞を助けに来られたのだとお見受けします。その事から、停戦交渉の余地があると判断し、こうして提案させていただいてます」
衛狼隊長「妙な事を……。それにニホン国、って国は聞いたことねぇ……少なくとも近隣の国じゃないな?そんな国の軍がなぜ――」
考察を口にしかけた衛狼隊長は、しかしその途中で首を振る。
衛狼隊長「いや、今はいい……それよりアンタらの提案だ。耳障りの良い内容だが、うかつには食いつけねぇ。丸腰でお宅らの預かってるウチの仲間を迎えに行ったところで、あんたらの奇妙な攻撃に串刺しにされない保証はねぇだろ?」
補給「えぇ、おっしゃる通りです。それに関しては、我々からは信じて下さいとしか言えないのが歯がゆい所です。ですが――とりあえず今は一つ、行動で示せます」
言うと補給は、谷間の西側へ視線を向ける。衛狼隊長がその視線を追うと、その先に異質に瞬く光が見え、そして同時に唸り声のような奇妙な音が聞こえて来た。やがて唸り声は雨音よりも大きくなり、合わせて光は強力さを増す。
衛狼隊長「ッ――なんだ?」
補給「大丈夫。我々の車両です」
訝しむ衛狼隊長に説明する補給。
やがて瞬く光の後ろに、接近する物体のシルエットが微かに浮かび上がる。それは高機動車の物だったが、衛狼隊長にはその姿が、二つの眼を光らせる獣か何かのようにも見えた。
衛狼A「隊長!」
接近する得体の知れない物体に対して勘繰る暇も無く、今度は衛狼隊長の背後から声が掛かる。声に振り向けば、衛狼Aを始め数名の傭兵が駆け寄って来る姿が見えた。
衛狼隊長「お前ら――!?」
得体の知れない物体の接近に衛狼隊長の身を案じたのであろう衛狼A達は、衛狼隊長の元に駆け寄ると、彼の身を囲うように布陣。相対する補給と、接近する異様な物体へ警戒の目を向ける。その間に、高機動車は補給と傭兵達のすぐ傍まで到着。前輪を大きく切り反転、テールランプの赤々と灯るリア側を補給達の方へ向けて停車した。
衛狼隊長(荷車?だが引く馬や陸竜がいねぇ。いや、荷車と一体化してる……?)
衛狼隊長は現れた奇妙な物体の正体を勘繰るが、彼の注意はすぐにその荷台から降りて来た人影に向いた。
隊員G「むぉっ、暴れるなよ少年!取って食うわけじゃないんだ!」
困惑の言葉と共に、高機動車の荷台から降りて来たのは河義。その腕には、身をよじって暴れる少年の体が抱えられていた。
衛狼A「側近傭兵君!」
その少年の姿を見て、傭兵の衛狼Aが声を上げた。
河義の腕から降ろされた少年側近傭兵は、すぐさま逃げるように河義から距離を取ると、身を翻して補給や河義等に警戒の目を向ける。側近傭兵は駆け寄って来た衛狼Aにその体を抱き留められ保護されたが、しかし仲間の保護を受けて尚、少年のその目は補給等を睨み続けていた。
一方、高機動車の荷台からは側近傭兵に続いて、毛布の掛けられた担架が降ろされて来た。隊員の手で補給と傭兵達の間に運ばれてきた担架は、一度地面に降ろされる。
補給「先発したそちらの部隊の隊長さんだと。確認を願います」
補給はそう発しながら屈むと、担架に掛けられていた毛布をめくる。その下に現れたのは、親狼隊長である親狼隊長の体だった。
衛狼隊長「親狼隊長ッ……!」
覚悟をしていたとはいえ、数多くの戦場を共にした同胞の変わり果てた姿に、衛狼隊長は思わず親狼隊長の名をその口から零す。そして同じく親狼隊長の亡骸を目にした傭兵達からは、ざわめきが起こった。
衛狼B「貴様らぁッ!」
一人の傭兵から怒りの声が上がり、彼は腕に抱えていたクロスボウを補給へと向ける。その行動は他の傭兵達へと伝播。彼等はそれぞれ剣やクロスボウを構え、各得物の切っ先と傭兵達の殺気が、補給を中心に隊員等へと集中する。
隊員G「ッ!おいおい!」
それに対して、河義等周囲の隊員は自身の火器を構え、高機動車に据え付けられたMINIMI軽機に着く隊員は、傭兵達にその銃口を向けた。
衛狼隊長「ッ――よせッ!」
補給「撃つな、武器を降ろせ」
その場は一瞬、一触即発の空気となりかけたが、衛狼隊長と補給はすぐさま、そしてほぼ同時にそれぞれの部下に制止を掛けた。双方の各員はそれでも各々の武器を降ろすことをためらったが、補給は、互いの長からの命令で彼らがギリギリ踏み留まっている事を確認すると、衛狼隊長に向けて再度言葉を発した。
補給「この方は、そちらの部隊の隊長さんで間違いありませんね?」
衛狼隊長「ああ……そうだ」
補給「隊長さんのご遺体を、そしてあの子の身柄をあなた方へお返しします」
補給は親狼隊長の遺体へ落としていた目を、自分達を睨み続けている少年に向ける。
補給「あの子は、隊長さんが庇ったようで唯一無事でした。保護しようとした際、隊長さんの側を頑なに離れようとしなかったので、隊長さんのご遺体だけを先んじて回収し、一緒に後送しようとしていた所でした」
言いながら補給は、今度は背後に振り返り、崖下へと視線を送る。そこにも先の戦闘で斃れた傭兵達の亡骸が連なっている。雨ざらしにしないために、半数ほどの亡骸にはビニールシートが掛けられていたが、未だに手付かずの部分も多く見受けられた。
補給「他の方達のご遺体もなんとかしたかったのですが、生憎我々は人手も物も足りていない状況でして……申し訳ない」
一通り説明を終えてから、親狼隊長の顔に再び目を落とす補給。それまで、温和な口調に反して隙の無かったその表情を酷く顰める。
衛狼隊長「……」
衛狼隊長は、目の前に立つ男の腹の内を探っていた。
淡々としたその態度の裏で、その実、彼等もかなり追い詰められた状況にある可能性を考えたが、しかし衛狼隊長はその考えを、すぐに内心で否定する。その理由は、剣狼隊長を始めとする剣狼隊が未だにこの場に姿を見せていない事にあった。
衛狼隊長の剣狼隊に対する印象は良くなかったが、しかし彼女達のその実力が並ではない事は知っている。実際衛狼隊長は、敵陣に飛び込み瞬く間に無力化してゆく剣狼隊長達の姿を、これまでの戦いで幾度も目にしていた。そんな剣狼隊が未だに到着しておらず、目の前の敵である彼等が健在である事。そこから彼等が、剣狼隊と同等かそれ以上の力をもつことは想像に難くなかった。
だが一方で、ここにきて罠という可能性も薄くなっていた。代表たる男の行動は己のみを酷く危険に晒す行為だ。死に絶えの傭兵一隊を、そこまでの危険を冒してまで罠にかける合理性は無い。にもかかわらず危険を冒して目の前に身を現し親狼隊長の遺体と、生きていた側近傭兵を引き渡して来た理由――
衛狼隊長 (連中の全体像は未だに見えてこないが……少なくとも本当に停戦を望んでいる……)
衛狼隊長はそう結論付けざるを得なかった。
もう一度男を見る衛狼隊長。その顔は愁いを帯び、なにより辛そうだった。
衛狼隊長(この男は、強者だがとんだお人よしだ)
男が見せた、本気でこの戦いを痛ましく思っているであろう表情から、その結論に達し、改めて目の前の奇妙な姿の男を見る。その姿を前に、衛狼隊長は毒気を抜かれたような感覚を覚えていた。
衛狼隊長「……他の生き残った連中はどうしてる」
補給「重症でしたので、治療のために我々の拠点に搬送しております。怪我の具合から、正直申し上げて必ずお助けできるとは言えません。しかし治療に全力を尽くすことを約束します」
補給のその言葉を聞いた衛狼隊長は、少しの間の後に口を開いた。
衛狼隊長「……いいだろう、飲んでやる」
衛狼A「隊長!?」
衛狼隊長のその言葉に、目を見開き声を上げる衛狼A。
衛狼隊長「分かってるさ。今の話を聞いた所で、到底納得できねぇだろうし、彼等への怒りも治まらねぇだろう。俺も同じだ。だが、せっかく返って来たソイツかかえたまま、ここでやり合うことはしたくない。それに、帰って来たこいつを無事に返すのが、庇った親狼隊長へのせめてもの手向けだと思う」
衛狼Aを始め傭兵達に向けて言った衛狼隊長は、その視線を側近傭兵少年へ向ける。
衛狼隊長「側近傭兵、親狼隊長の最期の覚悟を見たんだろう?それを無駄にしないためにも、今は耐えてくれや」
側近傭兵「……」
その言葉に、側近傭兵は少しの間険しい顔で衛狼隊長の顔を見つめた後、目に涙を滲ませながらも、コクリと頷いた。
衛狼隊長「いい子だ」
側近傭兵の頭をグシグシと撫でた衛狼隊長は、少年に向けていた優し気な表情を毅然とした物へと戻し、補給へと振り返る。
衛狼隊長「停戦命令を伝令で送る。そっちも戦いを収めてくれるんだな?」
補給「ええ、こちらも直ちに停戦命令を出しましょう。ご理解に感謝します」
衛狼隊長の問いかけに対して、補給は変わらぬ穏やかながらも隙の無い口調で、約束の言葉を口にした。
剣狼AA「うぅっ……」
地面に倒れる一人の女傭兵が、苦しげな声を漏らしている。
隊長の元へと向かうための進路を妨害する敵を排除すべく、仲間たちと共に攻撃を試みた彼女は、しかし敵の奇妙な炸裂攻撃を受けてなぎ倒され、今の状態に陥った。全身の痛みに苛まれながらも、首を動かして顔を起こす彼女。
剣狼AA(くっ、そんな……)
目に映った光景に、彼女は心の中で悲観の声を漏らす。
周囲には、敵の攻撃の餌食となった仲間の傭兵達の亡骸がいくつも見える。そしてその先に、彼女達をこの凄惨な状況においやった、敵の禍々しい姿があった。巨大な体躯を持つ、亜人の一種と思われる敵。その敵が掲げる太く強靭な片腕には、果敢に挑んだが力及ばず倒された傭兵の体が、頭部を掴まれてぶら下がっていた。
剣狼AA(こんな……こんな敵がいるなんて……)
敵の姿とその凄まじさに、恐怖の感情を覚える彼女。
剣狼AA(……でも……!)
しかし彼女は歯を食いしばり、そして落ちていた剣の柄を握り直す。
剣狼AA(私たちは隊長と共に、どんな時も乗り越えて来た……隊長がいる限り私たちは負けない……諦めないッ!)
意を決し、視線の先に居る巨体の敵に立ち向かうべく、彼女は立ち上がる――
ゴリュと、彼女の後頭部が金属の感触を感じ取ったのは、その瞬間だった。
剣狼AA「?――びょッ」
乾いた破裂音が響き、女の額が内側から突き破られて穴が開いた。その額の穴からは鮮血が吹き出し、女の口からは妙な音が漏れる。そして支えを失った彼女の身体は、再び地面に沈み込んだ。
隊員C「しつけぇっつの」
死体の後ろからウンザリとした声が上がる。そこに立っていたのは他でもない隊員Cだった。彼の手に握られる9mm拳銃からは、微かに硝煙が上がっている。
隊員C「ったく、ようやく静かんなったか?」
隊員Cは呟きながら、他に抵抗を試みる敵がいないか周囲に視線を向ける。
支援A「コースはこれで終わったっぽいなぁ。デザートのさぁびすが無けりゃだけどヨォ」
岩場に足を掛け立っていた支援Aが、隊員Cの言葉に返しながら、掴み上げていた傭兵の死体をほっぽり投げる。そして弾薬の連なった新たな給弾ベルトを取り出して、弾切れとなっていたMINIMI軽機への再装填を始めた。
隊員Cは周囲に敵の動きが見られない事を確認すると、警戒の意識を保ちながらも、近くの岩場に腰を降ろして「ぼへぇ」と品の無いため息を吐く。
傭兵隊の波状攻撃を全て撃退した隊員Cと支援A。そんな二人の周囲には、両手で収まらない数の傭兵達の死体が、そこかしこに倒れていた。
襲い来た傭兵隊はおよそ小隊規模。獣人を含む傭兵達はいずれも人並み外れた身体能力を見せ、苛烈な攻撃を仕掛けてきたが、今は一人残らず撒き散らした血と肉で、隊員C達の周囲を血生臭く彩っていた。
支援A「にしてもホンマに妙ちくりんな連中だったわなぁ。みいんなお遊戯みたいに声高らかでよ」
隊員C「自分達がお話の主役とそのお仲間達のつもりだったんだろぉよ。実態は飼い主に飼いならされた、とんだ異常性癖勘違いフェミの群れだったがよぉ、うっすら寒い台詞をしこたま吐いてやがってよぉ!キレそうだしゲロ出そうだ!」
支援A「少なくとも、疾うにキレとった気がするじぇえ?」
隊員Cの悪態にそんな疑問の声を返す支援A。
隊員C「マヂで喉の奥酸っぺぇ……!」
隊員Cは岩場の影に置いておいた装備の中から水筒を拾い上げ、喉奥の不快感を洗い流すべく水を含んでうがいを始める。
補給『ジャンカーL1より全ユニットに告ぐ。停戦だ、これより自衛行動以外の戦闘を停止しろ』
インカムから命令が飛び込んで来たのはその時だった。
同僚『繰り返す、停戦だ。傭兵組織の代表から停戦の合意が得られた。全ユニットは自衛行動以外の戦闘を控えろ』
隊員C「ペーェッ――あぁん?今なんつったぁ?」
通信の内容に、口を濯いだ水を吐き出した隊員Cは怪訝な声を上げ、ハテナといった表情を浮かべる支援Aと視線を合わせた。
支援A「今度はどうしたほい?」
自衛「あぁ?」
同僚「………停戦って言ったか?」
睨み合う自衛と同僚の元へ、突如飛び込んで来た通信。その内容から二人はそれぞれ怪訝な声を零し、険しい顔を作ったまま、続く通信に注意を向ける。
同僚『繰り返す、停戦だ。傭兵組織の代表から停戦の合意が得られた。全ユニットは自衛行動以外の戦闘を控えろ』
自衛「少し遅かったな、たった今脅威を潰した所だ。あぁ、こちらエピックヘッド」
補給からの発信が一区切りした所で、自衛はふてぶてしい口調でインカムに向けて発した。そして言葉の最期に、思い出したように無線識別を付け加える。
同僚『待て――潰した?砲撃支援もまだだぞ?そちらだけで脅威存在を排除できたのか?』
自衛「ええ。脅威が隙を見せたんで、そこにぶっ込んだらぶっ飛ばせました。?壽、鳳藤共に健在です」
返って来た補給の驚き混じりの疑念の声に、自衛は変わらぬ調子で返答した。その報告に対してすぐには返す言葉が思いつかないのか、補給からの返信の気配が途切れる。そこを狙ったかのように、別の声が通信へ割り込み響き出した。
隊員C『あぁー、失礼しますよ?こっちはエピック2ぅ。大っ変不本意だがエピックヘッドに同じぃ!たった今、取り巻き共約一個小隊を蹴散らし終えたトコだっつーの!』
舞い込んだ声は隊員Cの物だった。隠す気すらないイラ立ちがダダ漏れの声色で、彼等側の状況を捲し立てる。
自衛「隊員C、そっちもうまくやったようだな」
支援A『ヨーぉ!お前等も無事だったかフリィーダァム&ブレェィドッ!よかったぜぇ!』
自衛が呼びかけると、支援Aの陽気な大声が返って来た。
同僚(ふ、フリーダム&ブレイド……?)
隊員C『ぬぇッ――横ででけぇ声だすんじゃねぇよ!自分のインカム使えや……ッ!』
同僚が内心で訝しむのをよそに、間髪入れずに隊員Cの文句が通信から流れて来る。どうやら支援Aは、隊員Cの装着するインカムに向けて間近で声を上げたらしい。
支援A『固いコト言うなよグッドガァイ』
隊員C『人をホラー人形みてぇに呼ぶんじゃねーよ。――とにかく、こっちゃぁ大体そんな感じだ!』
割り込んで来た隊員C等の騒ぎ声がそこで一区切りつくと、再び補給からの通信が開かれる。
同僚『あー、エピック各員。そちらの状況は把握した。脅威を無力化したのはよくやってくれた、皆無事なのもなによりだ。しかし言った通り停戦だ、これ以降は自衛行動以外の戦闘は控えてくれ。今現在、傭兵隊側からも停戦の伝令を走らせてもらっている』
隊員C『相手の伝令って馬だろ?ラグがどんだけできんだよ。だいたいヤバイ戦闘の真っ最中だったらどうするつもりだったんだよ?』
支援A『バトルは急には止めらんねーんだずぇ?』
隊員C『反吐ぶっ吐きそうな状況の中にあるってのに、綺麗事押し付けられても正直迷惑なんですがね!?』
同僚『エピック……ッ!厳しい状況下で、突然な事を言っているのは理解している。だが愚痴は後にしてくれ!――他、展開中の各ユニットも了解か?ただちに戦闘停止が困難な場合は、その旨を報告してくれ』
補給は、遠慮なく垂れ流されて来る隊員C等の悪態を苦々しい声色で塞き止めると、各隊に向けて呼びかける。
隊員L『ジャンカー1-2、問題なし』
施設車長『ハノーバー、了解』
隊員O『1-3』
各ユニットから報告が上がり、無線越しに二人の耳にも届く。自衛等の位置が最前線だったようで、幸いにも他の隊からの戦闘報告は無かった。
自衛「補給二曹。一応聞きますが。まだ襲って来る奴がいた場合は、ぶっ飛ばしても問題ありませんね?」
同僚『あぁ。今は不安定な状況だ、その時の判断は各員に任せる。だが、くれぐれも慎重に行動してくれ』
自衛「いいでしょう。エピックチームは再編し、ジャンカー主力に合流復帰します。エピック2、隊員C、投。まずお前らんトコで合流して、再編成しよう」
隊員C『へぇへぇへぇ』
自衛「エピックヘッド、終わり」
自衛は無線通信を終えると、同僚へと視線を向ける。
自衛「補給二曹が連中とうまい事話をつけたらしい。そいつを尊重して、スマートに行くよう心がけるとしよう」
同僚「………期待しないで見させてもらう」
自衛の相変わらずの淡々とした言葉に、同僚は険しい表情のまま一言発する。
未だに二人の間には良くない雰囲気が漂っていたが、停戦の報がクールダウンを促したのか、互いの仇敵を見るような眼と一触即発の空気は、一応の鳴りを潜めていた。
自衛「行くぞ。隊員Cと支援Aを拾って、分隊に合流復帰する」
同僚「……あぁ」
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